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電気接点関連抵抗溶接におけるタングステン系電極材料の性能

1.はじめに

抵抗溶接に用いられる電極には、以下に示す性能が要求されている。
1.高温、高圧力で変形しにくいこと
2.熱伝導と電気伝導が良い事
3.被溶接材及びめっき材と合金化しにくいこと
4.大気中で酸化しにくいこと
5.安価であること
「JIS Z3234 抵抗溶接用銅合金電極材料」の中で、表1の2〜4種で規定されている「クロム銅(Cu-Cr)」「クロムジルコニウム銅 (Cu-Cr-Zr)」「ベリリウム銅(Cu-Be)」などの析出強化型合金が一般的に用いられている。これらはCuにCrやZr、Beなどを添加し熱処理によってCuマトリクス中に添加物を粒子として析出させ、硬 さと電気伝導率(IACS%)を向上させているものである(写真1)。しかし、抵抗溶接では繰り返される加熱によって、Cu中に析出物が再び固溶して硬さと電気伝導率が低下し寿命に至っている。
 熱処理による固溶析出強化ではなく、Cu中に硬質粒子を分散させ、硬さと電気伝導率の特性を引き出しているものに「アルミナ分散強 化銅」がある。これはJISでは5種に規定されているもので、0.5%〜1%程度のアルミナ(Al2O3)をCuマトリックスに分散させたもので、分散強化型合金と呼ばれている(写真2)。析出強化型とは違い、繰り返される加熱による性能低下は少ないので、電極寿命を延ばしたい場合に多用されている。

 しかし、これら析出強化型合金やアルミナ分散強化銅では、電極寿命が短くなってしまう溶接条件がある。たとえば、
・被溶接物(ワークピース)やそのめっき皮膜によ りCuと合金化してしまう場合
・熱伝導がよい銅線の溶接、厚板ものや
熱かしめなど
・大電流、長時間の溶接条件
・溶接ショットサイクルが早い電機電子機器、
電池部品の溶接ラインなどである。
 このような溶接にはJIS Z3234 表2−Bグループで規定されている、タングステン(W)やモリブデン(Mo)、そしてこれらの合金電極材料が効果を上げている。

2.タングステン/モリブデンの特徴1)

1.タングステン(W)
・溶融点が金属中、最も高い(3387℃)
・常温での硬さ、また高温での硬さも高い
・常温ではかなり安定であるが、表面の光沢を失う程度に酸化する。
・400℃程度から酸化を始め、W3O,WO2,W20O58などを経て、700℃程度からWO3を形成し
急激に酸化する。
・電気抵抗率が高い(5.5×10-8Ωm IACS%で31)

2.モリブデン(Mo)
・高い融点を持つ(約2600℃)
・高温での機械的強度が高い
・空気中、常温ですでに酸化が始まり、暗赤色温度では、かなり酸化が進む。
・乾燥した酸素と常温では作用しないが、500℃以上では急速に酸化する。
また650℃以上では揮発して白鼠色のMoO3となる。
・電気抵抗率が高い(5.7×10-8Ωm IACS%で30)

 このように、WまたはMo は、その高温強度の優位性から、通電電流が大きい、ショットサイクルが早いなど、電極への熱的負担が大きい溶接条件において多用され、電極の変形による溶接品質のばらつきや寿命が短いといった不具合に対し優れた性能を発揮している。
 ただし、熱伝導率が低いことから、電極の発熱は比較的大きくなる。WやMoと合金化しやすいワーク材質やめっき皮膜であると、溶着、スパッタなどがひどくなる場合がある。
 加えて酸化しやすいといった面もあるので、酸化消耗(スケールアウト)が進まないように電極を積極的に冷却する必要がある。
 電極の温度上昇と酸化の防止には、後述する当社のNDB法がある。

3.タングステン系/モリブデン系電極材料の利用分野と使い分け

WやMoは高温強度に優れているほか、ワークピースやそのめっき成分と銅が反応してしまう場合にも効果がある。特にヒュージングなど、電極の発熱を利用しワークを加熱し、高圧力でかしめる用途にはよく用いられている。
 WとMoは以下の項目の優位差により使い分けられている。
・熱衝撃によって割れはWが発生しやすい。頻繁にクラックや折れが発生する条件ではMo が多用される。
・酸化消耗はMoのほうが大きい。寿命優先の条件ではWが多用される。
・高温強度はWの方が高い。高温、高圧力条件ではWが多用される。

また、Moに1%の酸化セリウム(CeO2)を分散させたセリモリ(商品名:SC-Mo)がある。Moの高温再結晶温度は約1200℃であるが、CeO2 の分散により約1800℃まで再結晶を抑制するため、電極の変形が小さくなり、電極寿命が延びた実績がある。純MoとSC-Moの熱処理後再結晶組織を写真4に示す。
2)WとCu、Wと銀(Ag)を複合合金化させた銅タングステン合金(Cu-W)や銀タングステン合金(Ag-W)は、高温強度と電気伝導率を兼ね備えた電極材料である。
表1にJIS Z3234 表2の抜粋を示すが、これは国外規格であるISOに準拠しているため、Bグループに示されている25Cu-Wや23Cu-W合金組成は国内ではあまり流通していない。国内で市販されている標準組成は30Cu-70W(当社商品名:エメ−C30A2 写真5)である。Ag-W合金の標準は35Ag-65W(同:エメ−S35A2 写真6)であるが、当社では10〜70Cu-残WのCu-W、20〜70Ag-残WのAg-W をラインナップしており、溶接条件に応じた適切な材料を選択できる。
W を炭素(C)と反応させ、炭化タングステン(WC)にすると耐酸化性が向上し、スケールアウト防止に威力を発揮する。ただし、電気抵抗率が19.2×10-8Ωm、IACS%で8.9 と悪くなる。そこで、WC にAgや銅Cuとの複合合金(Ag-WC 合金、Cu-WC 合金)にして抵抗率、熱伝導を改善して実用化されている。当社の40Ag-60WC(商品名:エメ−HS01 写真7)や50Ag-50WC(エメ−HS1)は高温硬さ、耐酸化性を兼ね備えた電極として好評を得ている。 Wを主成分にニッケル(Ni)やCu、を焼結助剤とした合金にヘビーアロイがある。Wを94%含んだW-Ni-Cu 合金(商品名:エメ−HAC2 写真8)などは、抵抗体、コンデンサなど、はんだめっきされたφ1 前後のワイヤーを溶接するチャック電極に用いられてきた。純W より耐酸化性が優れていること、切削加工ができ低コスト化できるメリットがある。またW がはんだとの反応が少ないことも選定された理由である。
これら電極を選定するにあたり、コストも重視せねばならない。レアメタルに属するW、Mo や貴金属であるAgが少ないほうが材料単価は下がるのはもちろん、電極形状に仕上げる加工方法として、簡便な切削ができるか、手間のかかる研削しかできないか、によってコストに大きく影響する。また、客先での再研磨、追加工ができるかどうかも選定基準になろう。WまたはWC成分が多くなるほど切削加工が困難になり、研削加工に頼らざるを得ない。各材種の切削または研削可能かを表2に示した。
表2 各種電極材料の諸元表
 商品名組成比重硬さHv IACS%*切削加工研削加工NDB
当社材種TRW99.9%以上19.345031
MRMo99.9%以上10.225030
C10B210%Cu-W16.833030快削
C20A220%Cu-W15.628040快削
C30A230%Cu-W14.222548快削
S35A235%Ag-W14.821053快削不可
HS0140%Ag-WC12.825037不可
HAC294W-Ni-2%Cu17.928019快削不可
比較クロム銅Cu-1%Cr8.915080可(軟)不可
アルミナ分散銅Cu-0.5%Al2O38.715080可(軟)不可
*切削加工性:快削>良>可>難

4.電極の冷却効果が絶大なNDB接合製品

 抵抗溶接電極にW,Moおよびこれらの合金を用いる場合、電極先端にこれら材質を適用し、ホルダーや冷却穴部分であるシャンクには銅、およびクロム銅などが用いられている。電極材とシャンクの接合には、一般的には「銀ろう付」もしくは「圧入」が多用されているが、接合品質がばらつきやすく、電極材の脱落、熱伝導の低下、接合部分での発熱などにより、溶接品質がばらついたり、電極寿命の低下を招いている。
 当社では、これら従来の接合方法を改良したNDB法で、お客様に供給している。NDB法は銅タングステン合金(Cu-W)、ならびにタングステン(W)やモリブデン(Mo)に、銅を直接接合する方法として当社が開発したもので、Non Defective Bonding(無欠陥接合)の略称である。NDBの工法を図1に示すが、治具にW、MoまたはCu-W合金をセットし、Cu片を乗せ、非酸化雰囲気電気炉中でCuを溶解し、その後冷却してCuを凝固させ、シャンクを形成させる。
 表3にろう付品とNDB品の接合部の品質比較を、写真9にろう付品の接合部断面を、写真10にNDB 品の接合部断面を示す。3)
 NDB品にはろう材や欠陥など存在しないため、シャンクへの熱伝導がよく、通電休止時の電極冷却が早いのが特徴である。電極寿命を短くするスケールアウトや熱変形を防止するばかりでなく、ショットサイクルを上げ、生産性の向上へ寄与でき、ろう付や圧入では不可能な領域の溶接サイクルを実現できている。ただし、電極材質によってはNDB化できないものもあり、表2に可、不可を示した。
表3 NDB品の接合部品質
 接合面積接合強度熱伝導率
W/mk
ろう付品60〜80%98MPa以上170
NDB品ほぼ100%127MPa以上210

5.お試しセットの販売

当社では適切な電極材料選定していただくため、各種電極材料を「お試しセット」と称し格安即納体制で準備している。(写真11)

6.まとめ

 図2は当社の電極材料をマッピングしたもので、横軸が常温硬さ(HV)、縦軸に電気伝導率(IACS%)である。比較としてクロム銅、アルミナ分散銅、タフピッチ銅(C1100)を載せている。硬さが増す材料を選定すれば(横軸の右方向にいけば)、電気伝導率は下がり電極の発熱が多くなることを示している。
  表4に「クロム銅」や「アルミナ分散銅」では寿命が短い溶接分野と、当社が推奨する電極材をまとめてみた。
 タングステン/モリブデンおよびこれら合金は、ク ロム銅やアルミナ分散銅に比べ高温強度に優れる反面、電気伝導率と熱伝導が低く、酸化しやすいという点がある。クロム銅やアルミナ分散銅などと同じ溶接条件では溶接点の温度は高くなり、溶接物との溶着などの不具合が発生することがある。電極の形状や溶接条件も見直し、電極と被溶接物とのヒートバランスをとる必要がある。これら溶接条件は、溶接物や溶接機の条件により多種多様である。ベストな条件をアドバイスできるよう、当社ではお客様からのご相談内容を蓄積し、データベース化に取り組んでいる。以上のデータが読者の電極選定の一助になれば幸いである。
表4 溶接分野とタングステン(W)/モリブデン(Mo)系電極の推奨材質
分野被溶接材事例不具合現象推奨電極材質
( )内は当社の商品名
解説
Cuと合金化
してしまう溶接物やめっき品
ステンレス板、鋼板、ニッケル板、
ニッケルめっき品など
合金化により電極表面のIACS%が低下し、発熱の増大、合金化の加速、・・・といった現象が起こして、電極寿命が早まる。Cu成分が約99%のクロム銅やアルミナ分散銅では寿命が短いAg-W(S35A2)
Ag-WC(HS01)
など
Fe、Niと反応の少ないAgと、高融点、高硬度のWCやWと複合合金化したもの。特にAg-WC系電極は、タングステン系電極のなかでは最も酸化し難く、優れた特性を発揮する。
亜鉛めっき、すずめっき、はんだめっきなどW(TR)

Mo(MR)

Cu-W(C10B2)

W-α(HAC2)
など
Cu、AgはZn、Sn、はんだ(Sn-Pb)と反応する。Ag、Cuを含まない、もしくはAg、Cuが微量の材質が適する。NDB法でCuシャンクを形成し、通電休止時の冷却効果を上げた物が優れた性能を発揮する。
熱伝導がよい溶接物銅板、銅線など溶接物の熱伝導性がよいため、溶接点の熱が逃げる。クロム銅やアルミナ分散銅では溶接点の熱を奪いすぎる。よって溶接が困難または不可。溶接電流を大きく、通電時間を長くしなければならず、電極にかかる熱的負荷が大きい。電極が赤熱するくらいの溶接条件が必要。クロム銅やアルミナ分散銅では耐えられない。高温強度が優れたWもしくはMoが最適。NDB法でCuシャンクを形成し通電休止時の冷却効果を上げた電極が優れた性能を発揮する。
大電流、
長通電時間が必要な条件
厚板もの
熱かしめなど
溶接ショットサイクルが早い条件電子部品関連
電池部品関連
車載電気部品
(ショットサイクルが数回/秒)
繰り返される加熱にクロム銅は軟化変形する。アルミナ分散銅でも耐えられないW(TR)
Mo(MR)
Cu-W
(C10B2/C20A2/C30A2)
Ag-W(S35A2)
Ag-WC(HS01)
W-α(エメ-HAC2)
など
高温強度に優れたW、Moと電気的、熱的良導体のCu、Agを複合化させた電極が用いられる。条件によりその合金組成、材質は選定されている。

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