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第38号プレス金型パーツのセラミックス化

 当社は1931年に創業を開始した粉末冶金メーカーである。粉末冶金法は、溶解法では製造出来ない高融点金属や超硬合金、セラミックス材料等を製造する技術であり、粉体を焼き固めて目的とする材料を得るものである。タングステンの製造から始まり、超硬合金、セラミックスへとその技術を拡張し、材料焼結から加工に至るまで、一貫した取り組みを実施している。当社の金型への取り組みは、超硬合金事業の一環として位置付けられ、金型パーツ加工から超精密順送プレス金型の設計、販売までを手がけている。これら金型ビジネスを通じ、金型パーツ材料に対する顧客ニーズに応える為、プレス金型パーツ用新セラミックス材料「NPZ-28」を開発した。本稿では、「NPZ-28」に関する諸特性や、その有効な使用方法等について述べる。

第一章 「NPZ-28」の開発背景

 IT文化の発展に伴い、携帯電話やゲーム機器、デジタルオーディオプレイヤー等、様々な電子機器が続々と市場に投入され消費されている。
 これらの電子機器には、電子輸送の接続端子として多数のコネクターが使用され、その多くはプレス金型による銅系材料のスタンピング加工により生産されている。
 それらのコネクターは、侠ピッチ、低背化等により、表面実装技術(SMT)対応品が主流であり、精密な金型技術が要求されている。
 また、これら電子機器の製品寿命は概ね短く、金型の立ち上げから量産に至るまで、一貫して厳しい短納期化が進んでおり、日本独自の擦り合わせ型の製造手法の浸透無くしては、この様な短納期での精密スタンプ加工の立ち上げへの対応は難しい。
 以上の理由により、日本は今もって精密コネクターにおけるプレス金型生産拠点の中心であり続けている。
 しかし、安い労働力を背景に、高い金型技術力を習得しつつある、韓国を代表とする海外の金型新興勢に対し、日本のプレス金型技術が如何に差別化し、如何にその優位性を持続させて行くかは大変重要な課題である。
 その一つの手段として、フラットリードに近い製品に限定されるが、プレス回転数の高速化による時間当たりの生産性の向上が挙げられる。
 昨今では4,000rpmを超えるプレス機や送り装置も出現し、高速運転に耐え得る金型の開発如何では、超高速プレス生産も現実味を帯びて来ている。実用域では既に、2,000rpm前後のプレス回転数が実現されているとも聞いている。
 現在、比較的軽荷重な精密プレス金型のパーツは超硬合金が主流であるが、2,000rpm前後でのプレス生産においては超硬合金の耐摩耗性の限界の為、切刃の再研摩頻度が生産性を大きく阻害している。
 また、超硬合金は再研摩の取り代が大きく、製品寿命の長い金型の場合には、複数回の金型パーツの更新が発生する。
 先述の通り、当社は古くから超硬合金製金型パーツ製作並びに、超精密順送プレス金型ビジネスに従事させて頂いている(図1)。
 この様な環境に置いて、スタンピングに携わる多くのお客様と接する機会を頂き、特に金型パーツ材料に関する様々なニーズをお聞かせ頂く事が出来る状況にある。
 これらの経験を踏まえ、改めて当社のコア技術である粉末冶金技術が、どのような形でスタンピングに携わるお客様へ貢献出来るのか、と言う事を考え続けて来た。
 その答えの一つが、ここにご紹介させて頂くプレス金型パーツ用新セラミックス材料「NPZ-28」である。

第二章 「NPZ-28」の材料設計思想

 「NPZ-28」は、プレス金型の切刃用途を前提に、当社のプレス金型技術者とセラミックス材料技術者のディスカッションを通じ、以下に示す材料設計基本思想を打ち立て、その実現に向けて材料開発を推進して誕生したセラミックス材料である。表1にNPZ-28の材料設計思想を示す。

第三章 開発された「NPZ-28」の概要と諸特性

 「NPZ-28」はセラミックス材料であるが、超硬合金の主成分であるWC(タングステン・カーバイド)を基本組成とし、ZrO2(ジルコニア)や最適量の焼結助材などを混合したナノコンポジットセラミックス材料である。
 WCが主成分である為、超硬合金に極めて近い研削性を実現している。また、WCの持つ導電特性を基本に、組成成分の混合条件の最適化により、優れたワイヤー放電加工面を実現している。
 当社の独自製法によりZrO2マトリックスにサブミクロンのWC粒子を分散させ(図3)、ZrO2の変態強化特性の最適化により、セラミックスとしては極めて高い次元において、耐摩耗性と耐欠損性(対チッピング性)の両立に成功している。表2に「NPZ-28」の機械的諸特性を示す。

第四章 「NPZ-28」のせん断プレス加工での使い方

4.1 せん断加工出来る被加工材の目安      
 「NPZ-28」はセラミックス材料としては、極めて優れた耐欠損性(材料の粘り強さ)を有している。しかしながら、セラミックス材料の特性上、金属や金属相を含む超硬合金と比較した場合、相対的には脆性挙動が顔を覗かせることも事実である。
 プレス金型の切刃としての利用を考えた場合、微細欠損(チッピング)の発生は切刃の利用に値しない。
 チッピングの発生を純粋にメカニカルな現象として捉えた場合、チッピングに到るか否かは、被加工材と工具材とのメカニカルな相互作用により発生する、工具材(NPZ-28)への引張り方向応力の大きさを指標とする事となる。
 鋼材等の塑性挙動を示す材料は、その破壊現象を理解する場合、トレスカやミーゼスの相当応力等を用い、最大せん断応力説やせん断ひずみエネルギー説に基づいた評価を主流とするが、セラミックスの場合、最大主応力説を持って、その破壊現象を主に評価する。
 つまり、「NPZ-28」をプレス金型の切刃として適用する場合には、少なくとも切刃稜線に置いて破壊限界以下の最大主応力が作用している条件に限られる事となる。
 また、プレスせん断過程における金型工具への力学的作用として、衝撃荷重などの動的な荷重も考慮する必要があり、被加工材料の弾性係数の大きさにも留意を払う必要がある。
 現在、FEM(有限要素法)解析による「NPZ-28」のチッピング予測手法を模索中であるが(図4)、チッピングと言う微細領域の破壊現象を表わすには、巨視的な破壊理論を主体とした線形破壊力学の範疇では旨く説明出来るまでには到っていない。
 しかし、現在までの様々な実地検証から、「NPZ-28」をプレス金型の切刃として適用頂く場合の条件が、徐々に明確化されつつあり、導入時点の一つの目安として簡易的に用いている。表3に、「NPZ-28」が切刃として適用可能な被加工材料の一つの特徴(目安)を示す。
4.2 「NPZ-28」の利用時のパンチとダイの組合せ方法
 せん断加工の切刃として「NPZ-28」を使用する場合、パンチもしくはダイの一方に適用し、他方には超硬合金を用いる組合せを推奨する。当初はパンチ・ダイ共に、「NPZ-28」の組合せが良いと考えていたが、その場合チッピングが多発する事が明らかとなった。
 その理由は推測の域を出ないが、前述した動的荷重における弾性係数の影響が主因ではないかと考えている。
 つまり、パンチもしくはダイの一方に超硬合金を適用することにより、バインダー相の低弾性率が、衝撃荷重を緩和する方向に作用しているのではないかと考えている(図5)。
4.3 「NPZ-28」の座屈破壊(折損)について 
 特にパンチへの「NPZ-28」の利用において、切刃形状が細くて微細な場合、超硬合金よりも座屈破壊(パンチ切刃の折損)に対する危険度は高い。折損するか否かの基礎的な見積もりは、オイラー公式における一端固定他端自由な場合の座屈荷重の求め方を適用すれば十分である。金型構造での対応としては、有効切刃長は出来る限り短く設定し、ストリッパーでの切刃保持に留意することが重要となる。

4.4 「NPZ-28」金型パーツの推奨面粗さ
 セラミックスの破壊特性は、その面粗度に対して特に敏感であり、面粗度が悪いとチッピングの発生は著しく促進される。従って、出来る限り切刃面粗度を向上させ、破壊の起点を排除する必要がある。理想的には切刃はラップ面が望ましいが、これでは超硬合金の様な使い勝手は損なわれ、非常に高価な金型パーツとなり、実用に耐え得ない。「NPZ-28」の切刃面粗度は、実用的には0.6μmRmax程度を確保出来れば十分であり(より良いに越したことはないが)、この値は超硬合金パーツの一般的な面粗度に相当する。つまり、通常の研削加工を施せば、面粗度としては十分である。但し、「NPZ-28」の成分であるジルコニアは、熱負荷を受けると格子変態するため、湿式や冷却ミストの噴霧等、出来る限り熱負荷を低減させて研削加工される事を推奨する。

4.5 「NPZ-28」の研削加工について 
 「NPZ-28」の平面研削加工やプロファイル加工の条件は、超硬合金と大きな違いは無い。下表に、「NPZ-28」の平面研削加工、再研摩加工(リシャープ)、プロファイル加工における、当社での使用工具や加工条件を記載するが、当社の超硬合金の加工条件と略同じである。
 但し、加工メーカーによっては独自に工夫した加工条件を適用し、より一層、材料特性を引き出して、パーツ性能において差別化がなされているのも事実である。
4.6 「NPZ-28」のワイヤー放電加工について 
 「NPZ-28」のワイヤー放電加工条件についても、当社の社内加工の場合、超硬合金と同じ条件で実施しており、その条件下での加工面粗度は、1μm Rmax前後と極めて良好な面粗度を実現している。この値は世界最高レベルであると自負している。
 このように、ワイヤー放電加工面における極めて良好な面粗度実現の背景には、「NPZ-28」の開発思想において、ワイヤー放電加工面でのダイ切刃への適用を視野に入れた材料設計の実施が挙げられる。
 しかし現在までのところ、ワイヤー放電加工面をそのまま切刃面として利用した実績は無くまた、「NPZ-28」のワイヤー放電加工面におけるマイクロクラックの影響が不明確である為、当社においてもワイヤー放電加工面をそのまま切刃へ適用することはお勧めしていない。
 しかし、この優れたワイヤー放電加工性は、加工形状の柔軟性に大きく寄与している。
 超硬合金におけるワイヤー放電加工のメカニズムは、WC相並びにバインダー相(Co等)ともに溶融されながら加工が進行するが、「NPZ-28」の場合は導電性のWC相は溶融するが、絶縁性のジルコニア相は、材料内部の残留応力の開放を伴いながら、WC相との界面より脆性破壊を起こして崩落する。
 この絶縁相の粒界破壊による崩落は、加工エネルギーを小さくさせる方向に作用し、ワイヤー放電加工における荒切り等では、加工速度の向上に繋がっている(図6)。
4.7 「NPZ-28」の型彫り放電加工について 
 「NPZ-28」はせん断加工の切刃としてだけでなく、簡易に放電加工出来る特性と、優れたトライボロジー特性により、環境問題対策として、潤滑油を使わない無潤滑(ドライ)環境下での絞り等の成形加工の実現に向けた研究にも取り組んでいる。
 東京都立産業技術研究センターとの2年間の共同研究を経て、現在は国の助成事業において、同センターを中心としたコンソーシアムにおいて取り組んでいる。同センターとの2年間の共同研究では、円筒形状並びに角筒形状の無潤滑絞り加工に一定の目出をつけることが出来た。
 この共同研究を通じ、「NPZ-28」に対する概ねの放電加工条件を見出しその結果、放電加工面において3.1μmRzの面粗度を実現している。表8にその時の放電加工の電気条件を示す。
4.8 「NPZ-28」のその他の使い方
 4.7で述べた通り、「NPZ-28」は無潤滑絞り加工においても一定の成果を得ている。
 図7は、ボール・オン・ディスクしゅう動試験における、しゅう動時間の経過に伴う「NPZ-28」と超硬合金の動摩擦係数の推移を示している。ボールをSUJ材とし、ディスクを「NPZ-28」と当社の超硬合金として、両者のしゅう動特性を比較した結果である。
 図から明らかな通り、「NPZ-28」は超硬合金と比較して、動摩擦係数が低くかつ、しゅう動時間の経過に伴う動摩擦係数の上昇も認められず、優れたしゅう動特性を有していることがわかる。つまり「NPZ-28」は、せん断加工のみならず、成形加工にも優れた特性を示す。
 また、その高い耐摩耗特性により、超精密金型においては致命的とも言える、パイロットピンの摩耗によるプレス製品精度の劣化対策として、パイロットピンへの適用にも有効である。

第五章 まとめ

1)「NPZ-28」は、プレス金型のせん断加工工具向けに、超硬合金の耐摩耗性に対し、飛躍的な向上を目指して開発されたセラミックス材料である。
2)「NPZ-28」の切刃への導入に際し、簡易的な選定基準として、適用可能な被加工材の特性を示した。
3)「NPZ-28」をプレスせん断加工で用いる場合のチッピング抑制には、超硬合金との組合せが良好である。
4)「NPZ-28」のプレスせん断加工パーツにおける研摩加工品の面粗度は、一般的な超硬パーツと同程度の0.6μmRmax以上を推奨する。
5)「NPZ-28」のプレスせん断加工における切刃寿命は、当社の超微粒子超硬合金と比較して2倍前後の寿命向上が確認されている。
6)「NPZ-28」の研削加工条件は、超硬合金と概ね同じである。但し、条件の更なる最適化により、より材料特性を引き出して、パーツ性能の差別化を図っている加工メーカーも存在する。
7)「NPZ-28」のワイヤー放電加工条件は、超硬合金と概ね同じである。
8)「NPZ-28」の放電加工においては、本稿で示した放電加工の電気条件にて、3.1μmRzの面粗度を得ている。
9)「NPZ-28」は、優れたしゅう動特性を有し、プレス成形工程の金型パーツにも効果を発揮する。
10)また、優れた耐摩耗性により、パイロットピンなどの、耐摩耗特性が重要な用途にも良好な適性を発揮する。

 以上、本稿では、「NPZ-28」に関し、特にプレスせん断加工の金型パーツとしての特性と使い方を中心に解説させて頂いた。各スタンピングメーカー様において、「NPZ-28」の特性を十分ご理解頂き、適材適所での利用により、劇的な生産性の向上を実現頂き、貴社のスタンピング工程における生産コストの低減に貢献できれば幸いである。

《参考文献》
1)岡村弘之:線形破壊力学入門,初版,培風館,(2004)。
2)竹内洋一郎ほか:セラミックの強度と破壊対策,初版,
経営開発センター出版部,pp77‐127,(S59)。
3)玉置賢次ほか:平成17年度塑性加工春季講演会講演
論文集,pp47-48,(2005)。
4)玉置賢次ほか:平成18年度塑性加工春季講演会講演
論文集,pp83-84,(2006)。
(開発技術センター)

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