(1)背景
お家芸と言われ世界をリードしてきた日本のプレス金型技術ですが、昨今は韓国などの追い上げにより、一部の情報では「日本でしか設計、製作出来ないプレス金型は全体の5%程度もあるかないか」と言われて久しいところです。
安い労働力を背景に、高い技術力までも習得しつつある海外新興勢に対し、日本のプレス金型技術が如何に差別化して行くかが大変重要な課題となっています。
このような現状に日本が対抗するための一つの手段として、プレス回転数を高速にし、時間当たりの生産量を出来得る限り向上させることが挙げられます。
特にポータブルで軽薄短小なデジタル機器には多数の内部実装用コネクターが使用されます。その製品の特性上、狭ピッチ、低背(ロープロファイル)、表面実装技術(SMT)対応品が主流となっています。
これらの製品は比較的、打ち抜き工程が多用されまた、生産ピン数も他のプレス金型製品と比べ多いため、プレス回転数の高速化による生産率の向上が大きな課題となっています。
昨今では4,000rpmを超えるプレス機や送り装置も出現し、高速運転に耐え得る金型が開発出来れば、超高速プレス生産も現実味を帯びてきています。既に実用域では2,000rpm前後のプレス回転数が実現されています。
現在、比較的プレス荷重のかからない精密プレス金型の多くには、金型パーツとして超硬合金が使用されていますが、2,000rpm前後でのプレス生産では超硬合金の耐摩耗性の限界により切れ刃の再研削を数日に1度程度の割合で実施しなければならないのが現状です。
また超硬合金では1回当たりの再研削の取り代が大きく、製品寿命の長い金型の場合は何度も金型パーツの更新を実施する必要が生じます。
弊社は超硬合金メーカーでもありまた、古くより超硬合金製金型パーツの製作に従事し、さらには超精密プレス順送型の設計、製造、立上げ、販売を実施してまいりました(写真1)。
こうした環境の中で、スタンピングに携わる多くのお客様と接する事が出来、様々なニーズをお聞かせいただく事が出来ました。これらの経験を踏まえ、改めて弊社のコア技術である粉末冶金技術が、どのような形でスタンピングに携わるお客様へ貢献出来るのかを考え続けてまいりました。その答えの一つが、この度ご紹介させていただく弊社のプレス金型向けパーツ用材料である「NPZ-28」です。
(2)新セラミックス材料「NPZ-28」について
NPZ-28はセラミックスですが、超硬合金の主成分であるWC(タングステンカーバイド)を主成分とし、それにZrO(2 ジルコニア)や最適量の焼結助材などを混合したセラミックス材料です。WCが主成分である為に、超硬合金に近い研削性を実現しています。また、WCは導電性を有し、更には混合粒径や混合条件を最適化する事により優れたワイヤー放電加工面を得る事が可能です。
弊社の独自製法によりZrO2マトリックスにサブミクロンのWC粒子を分散させ(写真2)、ZrO2の変態強化の特性を最適化する事により、セラミックスとしては高い次元で耐摩耗性と耐欠損性(対チッピング性)の両立に成功致しました。
既に大手コネクターメーカー様を中心に、複数のお客様から御好評を頂いておりますが、それらのご評価を集約すると、切れ刃寿命に関しましては従来超微粒子超硬合金の2倍前後を実現し、再研削代については同じく従来超硬合金の5分の1前後で済む(つまりパーツ寿命が従来超硬合金の5倍前後伸びる)と言う結果が出ております。このことにより、「金型再研削工数の削減」と「金型パーツの高寿命化」が実現され、金型生産ランニングコストの削減と高効率化を達成する事に成功しております。