技術情報

第39号 超硬合金長尺製品超硬合金長尺製品と応用

1. 超硬合金長尺製品

当社では長年に渡る独自の「拡散接合」焼結技術によって、ロー材や接着材などを全く含まない、均質で、有害な材料欠陥のない、高い信頼性を有する超長尺(2,000mm以上)の超硬合金製品を製作・商品化して参りました。
以下に、その特徴と技術背景、応用例などにつきまして、ご紹介いたします。

2. 特徴および技術背景

(1)超長尺を可能にする「拡散接合」焼結技術
拡散接合とは、接触した超硬合金どうしを特殊な条件で加熱することにより、各々の合金が相互に浸透(拡散)し、結合・一体化する製造法です(Fig.1参照)。この拡散接合の最大の特徴は合金そのものの相互拡散によって接合されるため、接合部分が他の部分と全く同質でかつ均質な接合ができる点です。
この拡散接合技術を応用することにより、従来の製法では製造設備等の面で限界があった長さや断面積を有する超硬合金を、境界層がなく、異種元素を含まない一体製品で高精度・高品位に製造することが可能となりました。
Fig.2にWC-12%Co超硬合金の接合境界面写真を示します。独自の製法により、接合面についても母材と同等で均質な合金組織を形成することができました。
(2)高い設計自由度
超硬合金は非常に硬く、難加工性であり、さらに研削加工や放電加工などに加工方法が限定されるため、非常に高い加工コストが必要となります。弊社では、焼結緻密化前の段階で、輪郭形状や穴などの加工をすることでニアネットシェイプ(Near Net Shape)の超硬合金製品を提供するとともに、お客様の設計要求に対しても柔軟に対応することができます。
製作可能最大サイズは以下の通りです。尚、そのほかの形状につきましても、ご相談ください。
(3)耐食・耐摩耗などに優れる超硬合金の適用
@超硬合金の種類(材種)
当社は独自の粉末冶金技術の応用により、用途に応じた種々の超硬合金を製作し、加工することが可能です。また、WC(タングステンカーバイド)粒径、バインダー金属の種類と量、第3元素の添加等により、耐摩耗性・耐欠損性・強度・耐食性・耐熱性等などの物理的特性を制御し、お客様ニーズに合わせて最適化させることも可能です。
Table1に当社における代表的な超硬合金材種を示しますのでご参照ください。なお、お客様のニーズに合わせたその他の材種につきましてもご相談ください。
A超硬合金の腐食挙動と耐食・耐摩耗超硬合金
Fig.3にFe系材料と超硬合金の腐食挙動について模式的に示します。一般にステンレス(SUS)などの鉄系材料における腐食(酸化)は、大気中の酸素や水と反応して表面に鉄系酸化物や水酸化物などの反応生成物(赤褐色の錆)を形成するものであり、表面に赤錆のような反応物(酸化膜)が発生いたします。
これに対して、酸性および中性溶液中における超硬合金の腐食は、合金成分のうちコバルト(Co)などのバインダー金属が優先的に溶出する形態となっており、母材表面近傍からCoが失われ、あたかもWCのみで形成されるような状態に変化いたします。そのため超硬合金においては、このような現象のことを「腐食」と表現しております。
なお、ここに示すような腐食形態は、酸性溶液下において非常に顕著です。一般的なWC-Co系超硬合金を用いたテスト結果(浸漬テスト後のSEM断面組織写真)をFig.4に示します。このように超硬合金における腐食は、合金成分のひとつであるCo相の優先的溶出によるものであるため、腐食後、Fe系合金の腐食層(酸化膜:錆)のように、外観から識別し、簡単に除去することはできません。
一方、アルカリ性溶液下における超硬合金の腐食形態は、WC(炭化タングステン)の優先的溶出であり、母相表面近傍のWCが失われ、Coのみで形成されているような形態に変化いたします。
上述のように、超硬合金は特有の腐食挙動をとることから、腐食挙動やメカニズムを把握し、合金設計に活かすことは非常に重要となります。弊社では同分野の研究を継続し、耐食性と耐摩耗性に同時に優れる超硬合金を種々、商品化しております。お客様の使用環境や溶媒などに合わせた超硬合金材種をご提案することで、長尺超硬合金製品としての最高の性能を引き出すことが可能となります。

3.超硬長尺製品の応用事例

(1)塗工用工具
@超硬化のメリット
液晶やPDPなどのフラットパネルディスプレイの大型化に伴い、ガラス基盤も大型化しているため、塗工用装置やフィルター関係の設備に対しても、高精度を維持しつつ大型化を図る必要が生じております。
超硬合金は「高剛性・高硬度」であるという特徴を有しており、大型・長尺部品における精度維持に有効なツールとして適用が期待されております。さらに、超硬合金は従来のステンレス(SUS)材と比較してはるかに高硬度であることから、耐摩耗性ならびに耐チッピング性(耐欠損・変形)を高次元でバランスした材料と言え、ガラス基盤との接触などによるダメージも最小限に抑制することができます。
また、弊社では独自の製造技術により非磁性や耐食性を有する超硬合金もラインナップしており、本用途への適用も可能です。是非ご検討ください。(Table 1参照)


A超硬化対応
従来、一般に超硬合金長尺製品は製造工程の関係上、簡単な断面形状である板状が主流となっておりますが、弊社では長年培ってきた独自の接合技術によりFig.5に示すように□30mm以内の範囲で、種々の断面形状や穴を付与することができ、FEM解析などを含め、高い設計自由度でお客様のニーズにお応えいたします(Fig.6参照)。これにより、SUS材との複合化やヘッド部分の交換といった既存設備との置き換え(超硬化)にも柔軟に対応でき、幅広いご支持をいただいております。
(2)切断刃
切断されるワークには、布・紙・樹脂フィルム・金属箔等があり、近年では焼結前のセラッミックシートなどの硬い粒子が存在する切断にも使用されています。そのため、高い耐摩耗性と、剛性が要求されるようになりました。これら市場の要求に応えるため、当社独自の製造技術を応用し、超硬合金製切断刃を商品化してまいりました。超硬合金製切断刃は、スチール製切断刃と比較して、約10−50倍の寿命を有し、さらに切断面の品質の向上、切断装置の省力化、無人化に貢献し、高い評価を得ることができました。
今後も、お客様のニーズに応えられるようさらなる改良を加えながら、高い性能と信頼をご提供いたします。

@シャープな切れ味
超硬合金は、一般的な刃物用スチール(SKH51)と比較した場合、ヤング率が約2.5倍(約540GPa)と剛性が高いため、ワークを切断した際に刃先が逃げにくい性質を有しています(Fig.7参照)。そのためシャープな切れ味を有しワークの切断面の品質が格段に向上します。また、耐摩耗性に優れていることから、その状態を長時間持続することが可能になります。
Aランニングコストの削減
耐摩耗性に優れる超硬合金はスチール製の刃物と比較すると約10〜50倍の刃具寿命を達成しています。長寿命化によって、製造ラインの手離れ化、自動化が可能となり、ランニングコストを大きく削減することができます。

B様々な用途に対応
超硬合金は、高い硬度(HRA90前後)を有するため、スチール切断刃では切断が困難だった金属箔や繊維質のワークにも使用することが出来ます。また、ワークに適した刃先形状に加工する事により、耐欠損性を向上し、より信頼性の高い刃物としてご使用いただけます。

4. まとめ

超硬合金長尺製品(工具)は超硬合金の特徴を生かした設計を行う事により、塗工用装置ならびに切断刃において、その性能を飛躍的に向上させることができます。スチール(あるいはSUS)と超硬合金の違いを十分に把握し、その長所・短所を認識することにより、超硬合金長尺製品への転換もスムーズに行うことができます。
また、現在超硬合金製品をご使用の場合でも、さらに高寿命・高品位をお望みのお客様は、是非当社へご相談ください。
                              
(超硬部品部 製造技術Gr: 坂本・中川)

ニッタン技報 

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