技術情報

第35号 高密度タングステン合金『ヘビーアロイ』Ti-Alターゲット

1.はじめに

 工具分野では工具の高寿命化のために工具基材上に各種のコーティング膜が処理されています。特にTi系のセラミック膜は鋼や超硬合金との密着性も良好で、鋼などの加工相手材と焼付きにくいなどの特性を有し早期に実用化されてきました。近年、TiAlN膜がその高硬度、耐熱性、特にAl元素に起因する優れた耐酸化性により超硬ドリル、エンドミル及びインサートで使用され工具メーカーで実用化されています。TiAlN膜は主にアークイオンプレーティング法により成膜されており、この際、物質源としてTi-Alターゲットが使用されています。当社でもTiAlN膜用のターゲット材料を提供させていただいております。以下に、当社のTiAlターゲット材料を紹介致します。

2.Ti-Alターゲット材料の種類について

成膜に使用されるTi-Alターゲットの組成は主にTi/Al(原子比)<1が用いられており、製法 により溶解法と粉末法に大別されます。Ti-Alの状態図から判るように溶解法ではTiとAlの金属 間化合物から構成されています。一方、粉末法ではTi-Alの合金粉末を焼結することにより得られ たTiとAlの金属間化合物相により構成されるものと押し出し法などによりTi相とAl相の2相より構成されるものに分類されます。
表1.Ti-Alターゲットの組成及び不純物
組成
粉末組成(at%)
基本組成:Ti/Al=50/50at%49.4〜50.5
TiAl49.0〜50.1
 不純物量(wt%)
Fe<0.1
Si<0.1
Cu<0.1
O<0.8
N<0.2
3-1.製造方法、組織構成及び形状
当社のTi-Alターゲットは融点の異なるTiとAlを特殊な合成方法により合金化した均質性の高い粉体を用いて、高温高圧法により高密度に緻密化されたものです。基本組成はTi(50at%)-Al(50at%)でありその組成範囲、不純物量を表1に示しています。又、図1に見られるように材料はTiAl相中にTi3Al相が島状に分散した2相から構成されています。図2は材料の研磨面と腐食面を観察したものですが、粗大なポアや欠陥もなく微細な結晶粒子から構成されていることが判ります。尚、ターゲットの形状はφ100×16mmが基本サイズですが、より大型のサイズ(最大可能サイズ:φ320mm)についても製造可能です。
3-2.Ti-Alターゲット材料の特長
上述したように、当社のターゲット材料は特殊な合成法により得られた合金粉末の焼結により得られていること、又、組織構成が金属間化合物から成る高密度・均質・微細であることから以下のような特長を有しております。
1.成膜中のターゲット表面の組成分布が均一です
アークイオンプレーティングではターゲット表面には放電電流が集中したアークスポットが生じます。この領域(10μm程度)には大電流が集中しターゲット物質が瞬時に溶解・気化し、このアークスポットはターゲット表面をランダムに高速に移動します。図3には当社のターゲットの断面の表面近傍の状態を示しておりますが、表面から約5μm程の溶解層がみられます。この溶融層の径方向のAlの組成分布の結果を図3に示しております。尚、同図内には比較として溶解法で作製されたターゲット表面のデータも示しておりますが、当社材の方がアーク直下の溶融面の組成的な均質性に優れることが示唆されております。これは溶解法の場合に存在するターゲット内の長範囲な組成的ゆらぎに起因しているものと考えられます。
2.第三元素の均一分散が可能です
当社で使用する粉体のプロセスではTi,Alの他に第三元素を容易に添加することが可能です。図4には例として比重差のある重元素を添加したターゲット内部での重元素分布を示しておりますが、均一に分散していることが判ります。添加は各種の金属、化合物(酸化物、炭化物など)も可能ですが、不可能な元素、量的な制限もありますので第三元素の添加を御希望される際には御相談をお願い致します。

尚、お客様に当社のターゲットを使用していただいておりますが、次のような好評をいただいております。

1.高密度であるため、異常放電の原因となる粗大欠陥もなく放電の安定性や均一消耗性に優れている
2.金属間化合物相から成るため、融点差による異常蒸発やドロップレットの発生が少ない
3.微細な金属間化合物相が均一に分散しているため、得られた膜の性能バラツキが少なく処理バッチ間での品質差が少ない成膜が可能

4.まとめ

今回、御紹介したTiAlターゲットを使用していただいた場合には、その特長ある組織構成により安定した品質の膜形成が期待されます。又、更なる膜質の改良に際しても、第三元素の均一な添加が可能ですので添加元素、添加量などご要望に応じて対応致します。お問い合わせ下さい。

(研究開発センター 浅田・中野)

ニッタン技報 

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