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超硬合金耐食・摺動超硬合金の諸特性

1.まえがき

超硬合金は、高硬度、高強度等優れた機械的性質により切削工具、金型等の耐摩耗工具として広く用いられている。近年、これらの材料はポンプ部品としてメカニカルシール、セラミック軸、軸スリーブ材として幅広く採用されている。摺動部材として用いられる場合、その硬度、強度より予想される寿命より極端に早く摩耗、損傷を受ける場合があり、腐食や摺動摩耗・クラック発生という特異な現象による場合が多い。これら硬質材料のもてる特性を充分に発揮するには、これらの現象をコントロールする必要がある。ここでは主に摺動材料として多く用いられる超硬合金についての腐食に関する特性、摺動特性評価方法について述べる。

2.耐食・摺動超硬合金

表1、図1には摺動材料として用いられる超硬合金の機械的特性、特徴を示している。
(1) 耐摩耗性
 主に硬度に依存するもので、これらの硬質材料ではほぼ十分な硬さを有する。相手材との相性、摩擦係数、安定潤滑膜の維持、PV値の上昇等の要因により影響を受ける。
(2) 強度
 摺動による応力、発熱、機械的拘束による応力があり、これらに耐えうる強度、外部応力による変形防止(高い弾性率)が必要となる。
(3) 耐食性
 摺動面には安定摺動(安定潤滑膜維持)のため加工精度と面粗度が求められるが、用いられる溶液による腐食で大きくその精度に損傷を受ける場合があり、化学的安定性が求められる。
(4)摺動特性
 金型等の固体潤滑条件下では、低摩擦係数、耐摩耗性(アブレッシブ摩耗、凝着摩耗)が要求されるが、基本的には高硬度、相手材との親和性、耐凝着性の検討が必要となる。ポンプ部材等の流体潤滑条件下では、安定潤滑膜がどのように構成されるか、潤滑材(酸化、水酸化膜)の形成が重要となる。

3.超硬合金の腐食特性

腐食の形態として、鉄鋼材料が大気中の酸素や水と反応して表面に酸化物、水酸化物の反応生成物(赤褐色の錆)を生じるのに対して、超硬合金の腐食は、CoやNiの結合相金属が優先的に溶液中に溶けだしていくような腐食形態をとるので、表面に腐食生成物を生じず、一見腐食しているようには観察されないが、内部の結合相金属の溶出により大きく強度低下を起こし、安定した摺動特性が得られないことが生じる(図2)。一般にNi結合相超硬合金が耐食性超硬と呼ばれ、さらにCrを添加した合金が強固な不働態皮膜を形成し優れた耐食性を示す、また炭化物粒度(WC粒径)が小さいほど耐食性に優れる。

【浸漬腐食試験】
 評価する試料をその使用環境に近い溶液中に一定時間浸漬させた後取り出し、試料重量減少量もしくは溶液中へ溶出した量を定量する。その値から腐食速度(mm/year)が算出できる。浸漬試験では試料自体が溶液中で自然浸漬電位(腐食電位)となり、その状態で腐食が進行する。従って、この浸漬試験結果からその試料を使おうとする環境において単体で適用可能であるのかをおおまかに判定することができる。また、溶出した物質の組成などから、腐食のメカニズムを推定することも可能となる。代表的な超硬合金の海水浸漬試験結果を図4に示す。最も一般的なWC-Co合金(G2)と比較してWC-Ni合金(NR8)、バインダレス合金(RCCL)、Ti系サーメット(TM2)が耐食性に優れることが分かる。

4.摺動特性

高強度、高耐摩耗性を合わせ持つ超硬合金は、各種機械の機能・性能・信頼性を支える代表的なトライボ材料としての地位を確保しつつある。摺動条件によっては摩耗、チッピング、摺動クラックの発生があり適切な材料選択、条件設定が必要となる。

【摺動特性評価】
 固体潤滑条件下では、低摩擦係数、耐摩耗性(アブレッシブ摩耗、凝着摩耗)が要求されるが、基本的には高硬度、相手材との親和性、耐凝着性の検討が必要となる。図4にはボールオンディスク摺動試験機を示しているが、各種材料組み合わせでの摩擦係数、摩耗量の測定、さらに表面や摩耗粉の調査により摩耗形態が推測でき、摺動特性向上への指針が得られる。
 図5には、各種超硬合金と鉄鋼材(SUJ2)との摺動試験による摩擦係数の変化を示している。超硬合金と比較的軟らかい金属材料との固体摺動では、凝着摩耗が起こりやすい。対策としては、超硬合金の結合相金属である。Coの量を減少させる、相厚を薄くする(微粒合金にする)ことが効果があることがわかる。
 流体潤滑条件下では、安定潤滑膜がどのように構成されるか、潤滑材(酸化、水酸化膜)の形成、相手材との相性等さまざまな要因により支配され、不明なところで、学問的にもさらに研究余地のある分野でもある。
 図6にはポンプ軸受けを模擬した流体潤滑摺動試験機を示している。図7には摺動によって生じるトルクの加重による変化を示しているが、摺動条件(PV値:摺動速度×加重)による潤滑状態(摩擦係数)が把握でき、限界PV値等の摺動特性が評価できる。
 摺動によりトルクが発生すると、残留引張応力、熱衝撃を受け、しばしば摺動クラックといわれる摺動方向に直角に微細なき裂(摺動クラック)を生じることが知られている。シールではリーク、エロージョン、ベアリングでは破損に至ることもしばしばで、この摺動クラック発生条件以下で使用することが必要となる。材料的にはクラックの発生しにくい材料の開発が求められる。
*本実験は以下条件下で実施いたしました。
温度:室温
湿度:約40%
その他条件:無潤滑(固体潤滑)

供試材
◇ボール(SUJ2鋼球)           ◇ディスク(G40/FND30/RCCL)
表面粗さ:Ra0.008μm              表面粗さ:Ra0.07μm
硬度:64.7HRC                  硬度:87.5/90.0/93.0HRA
ボールは回転しないように固定


5.あとがき

強靭さと耐摩耗性を合わせ持つ超硬合金は、各種機械の機能・性能・信頼性を支える代表的なトライボ材料としての地位を確保しつつある。充分にこれら優れた特性を引き出すには、上述の腐食や摺動特性を理解、制御し、稼働中に健全に保てる機器設計と材料の選定が重要となる。
(超硬部品部 製造技術Gr)

ニッタン技報 

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