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第40号 ガラスレンズ成型用金型材料スポット溶接用W電極のご紹介

1. はじめに

 耐食性を有しためっき鋼板は自動車、住宅、家電等の様々な分野で使用され、鋼板の代表的な接合法としてスポット溶接が挙げられます。そのスポット溶接の電極としては、一般的にクロム銅やアルミナ分散銅といった安価な銅合金が使われています。
 近年、各鋼板メーカーによって、より耐食性を高めるため合金めっき等の特殊な表面処理を施した鋼板や、環境面に配慮したクロムフリー処理鋼板といった新たな鋼板の商品化が進んでいます。しかし、これら特殊な鋼板にスポット溶接を行う場合、従来の銅合金電極では電極寿命が極端に短くなる事例が報告されており、鋼板ユーザーにとっては生産性低下の要因となり課題の一つとなっています。
 今回、これらのひとつである高耐食めっき鋼板「ZAMⓇ」のメーカーである日新製鋼(株)殿と共同で従来の銅合金電極に代わる新たなスポット溶接用電極を開発致しました。

2. 電極仕様

 鋼板のスポット溶接用電極として一般的に使用されているキャップチップ型(DR型、φ16×23、先端R40)をベースとして、ワークと接触する部分に他の金属と合金化しにくく、高温硬さに優れたW(タングステン)を埋設しました(高温硬さは図1参照)。電極の構造を図2に示します。CuにWを埋設したこのような構造は以前から知られていますが、CuとWとの接合方法に課題があり実用化には至っていません。
今回、CuとWの接合法として、従来の圧入やろう付け法よりも高い接合品質を示すNDB法にてWとCuとを接合しました(図3)。
 NDB法はCuを溶融させ、凝固時にWと直接接合する方法です。接合面積率はほぼ100%であり、高い熱伝導性と接合強度を示します。この接合法により、従来課題となっていたW芯材の脱落やWの冷却不足といった問題を解決しています。

3. 溶接試験及び結果

 供試材を日新製鋼(株)製の「ZAMⓇ」(Zn-6%Al-3%Mg合金めっき鋼板)とし、NDB法にて製作したW電極にて溶接試験を実施しました。比較の電極としてクロム銅(1%Cr-Cu)電極での溶接試験も行いました。溶接条件を表1に示します。試験1は鋼板の片面めっき付着量が30g/m2、60g/m2で後処理は無処理(MO)のものを使用し、試験2は鋼板の片面めっき付着量が90g/m2で後処理はクロムフリー処理(ZC)のものを使用しました。スポット溶接機は単相交流定置式のものを用い、電極寿命は100打点毎にサンプリングを行い、断面観察によってナゲット径が4付(t:鋼板の板厚)を維持する最大の打点数としました。さらに、100打点毎のサンプリング時には感圧紙により電極先端径の推移も調査しました。連続打点試験電流値は散りの発生しない領域として、散り発生電流値の97%の電流値で実施しました。
 試験1の結果を図4に示します。従来の電極材であるクロム銅が600打点〜1200打点で寿命となっているのに対して、W電極では5000打点以上の電極寿命となりました。
 試験2の結果を図5に示します。鋼板にクロムフリー処理が行われているので、電極へのダメージは試験1よりも大きくなります。クロム銅が300打点で寿命となったのに対して、W電極では2800打点の電極寿命となりました。
 「ZAMⓇ」を供試材とした場合、図4、5に示すように、クロム銅電極は溶接試験開始直後から電極先端径が拡大していますが、高温硬さに優れるW電極は先端径拡大が遅く、電流密度の低下が抑えられたことが長寿命化へ繋がったものと考えられます。また、Wはクロム銅と比較して熱伝導性が悪く冷却面で劣りますが、Cuと直接接合(NDB法)することにより冷却性能を向上させたことも長寿命化の一因と考えられます。
 W(タングステン)の特徴である優れた高温硬さ、他の金属と合金化しにくい特性を利用することにより、高耐食めっきやクロムフリー処理が施された特殊な鋼板のスポット溶接において従来の銅合金電極よりも長寿命化を達成することができました。また、「ZAMⓇ」以外の亜鉛系めっき鋼板においても同様に長寿命化が期待できます。スポット溶接工程において生産性向上につながるW電極を是非お試し下さい。

(注記)
1)本紙に掲載した内容は社団法人 溶接学会 第89回軽構造接合加工研究委員会(H22.6.10開催)にて発表したものです。
2)「ZAM」は、日新製鋼株式会社の登録商標です。
3)「ZAM」は、日新製鋼株式会社が開発した溶融亜鉛 Zn-アルミニウム Al−マグネシウムMg合金めっき鋼板の商品名です。
(電材部品部 製造技術グループ 向江 信悟)

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