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第32号高密度タングステンシートの開発と応用性 −鉛に替わる放射線しゃへい新材料−

1. 緒言

 放射線関連技術が進歩しその利用が拡大する中で、放射線しゃへいには、そのしゃへい能力が優れる割に安価である鉛、もしくは鉛含有材料のしゃへい材が使用されてきました。しかしながら、鉛は人体に有害な物質であり地球環境に対して影響を及ぼすものとして世界的にも規制の動きがあり、その代替材料が求められています。
 一方、環境への影響がきわめて小さなタングステンを主成分とするタングステン合金は、同体積における放射線しゃへい能力が鉛と比較して非常に高く放射線しゃへい材として利用されています。しかしながら、高温で焼結するため柔軟性・加工性が悪い、値段も高価であるといった欠点があり、その用途は限定されてきました。
 上記の課題を克服するために、当社では長年培われてきた粉末冶金技術と複合化技術を融合することによって、タングステンと有機材料からなる全く新しい高密度複合材料を開発し、柔軟性・リサイクル性を有する環境に優しい「タングステンシート」として商品化しました。

2. タングステンシートの製造方法

 タングステンシートの製造方法を図1に示します。高密度と柔軟性・加工性を同時に満足させるために、粉末性状を調整したタングステン粉末とリサイクル使用が可能なエラストマー樹脂を加温混練する事でタングステンと樹脂の複合材料が得られ、更にシート状に温間成形を行なうことで高密度のタングステンシートが得られます。
 このシートは250mm×250mm×1〜3mmを基本サイズとしているが、250mm×1000mmまでのサイズと3mm以上の厚みでの製作が可能であります。

3. タングステンシートの特性評価

 製作したタングステンシートの比重、機械的特性(硬さ、引張り試験)、放射線しゃへい性能を評価しました。

3−1 比重
 放射線しゃへい能力に影響を及ぼす最も大きな物性は材料の比重ですが、タングステンシートの比重は11.5以上であり、鉛(比重=11.3)以上の比重が得られています。

3−2 機械的特性
 表1にタングステンシートの硬さ、及び引張り試験による破断までの強度、伸び値を示します。柔軟性のあるエラストマー樹脂を使用する事で硬さは軟質で、鉛製品と比較してはるかに柔軟で取り扱いが容易となってます。また放射線しゃへい材料として十分に実用に耐える機械的特性を有しています。

3−3 タングステンシートの放射線しゃへい性能
 放射線しゃへい材に要求される最も重要な特性は放射線しゃへい性能ですが、ここではX線を対象にした低エネルギー領域放射線と、原子力発電所等で問題となるCo60γ線を対象にした高エネルギー領域の放射線に対するしゃへい性能を評価しました。
 表2にJIS Z 4501「X線防護用品の鉛当量試験方法」による鉛当量試験の結果を示します。試験片は100mm×100mm×0.9mm のタングステンシートを用い、管電圧100kV及び150kVのX線について鉛当量測定しました。タングステンシート1mm厚さあたりの鉛当量は1.1mmPb〜1.2mmPbに相当しており、鉛より高いしゃへい能力を有していることが確認されました。
 次に高いエネルギー領域の放射線を対象にしたしゃへい性能試験として、Co60γ線に対する減衰率を測定評価しました。測定条件は線源にCo6(0 59.8MBq)を使用し、タングステンシート(250mm×250mm)の厚みを変え線量を測定し減衰率を求めました。図2にタングステンシート及び、同条件にて測定した鉛、タングステン合金の減衰率を示しますが、タングステンシートは鉛と同等のしゃへい性能を示すことが確認されました。
表1 タングステンシートの硬さおよび引張り試験結果
測定項目硬さ(デュロメーターA)引張り強さ切断時伸び
方法JIS K6253JIS K6251JIS K6251
単位Mpa%
測定値95.64.425
表2 タングステンシートの鉛当量試験結果
管電圧(kV)鉛当量測定値(mmPb)
(100mm×100mm×0.9mm)
1mm厚みシート換算
鉛当量(mmPb)
1001.061.18
1501.001.11

4. タングステンシートの応用例

4−1 タングステンシート
 タングステンシートの外観写真を図3に示します。タングステンシートは高い放射線しゃへい性能を示すため、各種X線装置のしゃへい材として応用できます。例えば放射線の発生源を収納している容器の内側あるいは外側に接着あるいはビス留め等で固定して使用することができます。また、タングステンシートは柔軟性があり、且つハサミ等で簡単に切断、穴あけが可能であるため、配管やチャンバーに巻きつけたり、所定の寸法に切断して必要な部分に接着して使用することもできます。

4−2 タングステンマット
 原子力発電所では定期検査時の仮しゃへい用として、鉛の毛を袋に織り込んだ鉛毛マットがよく使用されていますが、この代替として図4に示すようなタングステンマットが使用できます。タングステンマットはタングステンシートを表面コーティングされたガラスクロスに縫製、封入したもので、鉛毛マット以上の柔軟性を持ち、使用中の型くずれ(鉛毛が片側に集まりる)もなく、取り扱いが容易です。また、タングステンマットは鉛毛マットの1/3程度の厚さで同等のしゃへい能力を持つことができるため、保管、廃棄等にも便利と言えます。

4−3 小径配管用タングステンシート成形品
 原子力発電所で鉛毛マットではしゃへいし難いとされている小径配管については、タングステンシートやマットをそのまま巻きつけ固定して使用できますが、更にしゃへい材の設置、撤去の時間を短縮し、作業者の被爆低減を図る目的に、図5に示すような円筒状に成形したタングステンシートを使用できます。これは、あらかじめタングステンシートを円筒状に成形し、配管への着脱をワンタッチで行うことができるようにしたもので、タングステンシートが熱可塑性で、ある程度の加温で容易にどのような形状にも成形でき、且つ、常温ではその形状を保つことができることを利用しています。

5. まとめ

 当社で開発したタングステンシートは鉛の同等以上の高い放射線しゃへい性能を有し、優れた柔軟性・加工性とリサイクル性を兼ね備えているため、医療用のレントゲン装置から各種工業分野における各種X線装置、また原子力発電所、大型電子加速設備といった放射線施設内で使用される「環境に優しい放射線しゃへい材」としての応用が期待されます。

開発技術センター 第1チーム 岡村研ニ

ニッタン技報 

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